2021.05.14 珠寶專欄

【指輪へのこだわり】鍛造と切削技法を使った結婚指輪

鍛造と切削技術


ithの新しい鍛造コレクションでは、鍛造と切削という技術を使ってお仕立てをします。

昔ながらの製法で1本の地金の線から、ハンマーで輪の形状に丸め、溶接し指輪の形状にしてから、専用の機械で削って成形する一点物の贅沢なつくり方です。



ハンマーを使って地金の表面を叩いて引き締め強度を持たせること、ジュエリー用に特注した旋盤という機械を使って幅や厚みの寸法を一定に削り出す技術は、今までのithのコレクションにはなかったつくり方です。



切削の長所を活かしたデザイン


鍛造コレクションの中でも、特に切削技法に優れたデザインが3つあります。表面は凹凸のないすっきりとした見た目、形状の美しさを楽しむ結婚指輪になっています。



Da Capo《ダ カーポ》


鍛造コレクションの中でも一番ベーシックで、上品な印象のあるデザインです。

音楽用語の表現でダ カーポとは、‘はじまりから’や‘はじまりに戻る’という意味があります。結婚してご夫婦としての一歩を踏み出す時の気持ちを忘れずに、お二人がこれから末永く過ごせますようにという願いを込めています。

平甲丸という断面の形状でかまぼこ型と四角形の中間の、少しだけ表面に丸みがついたかたちは一見するとシンプルですが、実はカーブの形状をつくるためにこだわりがあります。

指輪の断面の形状をつくったり、側面を切削するために使う刃物は、ダイヤモンドの粉末を固めた素材でできている‘ダイヤバイト’という道具を使います。わずか2mmほどしかない指輪の表面に、刃の角度を調整しながら6回に分けてダイヤバイトを当て、表面の形状をつくっています。平甲丸の形状になった刃を使い一度に削り出していると思っていましたが、この一手間があるからこそ、上品で手にしっくり馴染む指輪になるのだと思います。

Da Capo《ダ カーポ》コレクション



Superiore《スペリオーレ》


専門用語で剣腕と呼ばれる断面が三角形の形をしたデザインです。

エッジのある見た目から、イタリア語で‘山の頂上’という意味の名前をつけました。

シャープなラインが中央に入るこの形は、エッジの角度が鋭利になりやすいため、つけ心地を良くする工夫として男性リングは幅3.0mm、女性リングは幅2.5mmの仕様にしています。また、山の斜面にあたる部分を切削の技法でほんの少しだけ丸みをもたせて削り、まっすぐで機械的な見た目ではなく、手仕事のぬくもりを感じられるようにこだわりました。

Superiore《スペリオーレ》コレクション



Calando《カランド》


中央に窪みのある逆甲丸という形状のデザインです。

音楽用語の‘和らいで’という意味を持つこの結婚指輪は、表面にヘアライン加工が縦にやさしく施されています。細く平行に並んだヘアラインの加工に光が当たり、宝石の光学的効果の‘キャッツ・アイ’という猫の目のように見えます。

切削の加工は機械を使って行うのですが、職人が手作業で加工する場合は、やすりがけという作業と同じ工程になります。機械を使って一周同じ深さで削るほうが窪みが均一になるので、切削の強みを活かした形状になっています。

加工の最後に、逆甲丸の形状の縁の部分のエッジを切削でもうひと加工することで、見た目も手触りもやさしい結婚指輪になります。

Calando《カランド》コレクション



機械の精度と、それを扱う職人の感性


切削技法へのこだわりがある3つのデザインに共通していること。それは機械の精度はもちろん、それを使いこなす職人の経験に基づいた感性や、時間のかかる面倒な一工夫にこだわることが、よりよいものを生み出すことに繋がっているということだと思います。

この旋盤という機械は、航空機や宇宙開発に使う精密機器をつくることができる機械です。0.1mmよりも細かい単位で切削のできる道具ですが、機械の性能だけを頼りにすると無機質で冷たい印象になる指輪になってしまうところに、手仕事のちょっとした工夫を凝らすことによって、あたたかみのある結婚指輪が誕生します。


つくり手  高橋亜結

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